信じられるものはなに?
その新聞記事を読んで、私は腰が抜けるほど驚いた。
『羽手菜しなもんさん死亡、他殺の可能性含め捜査』
高校生歌人の羽手菜しなもんさんが14日午後3時15分ごろ、C県のN海岸で亡くなっているのが発見された。18歳だった。付近の住民が海岸にうつぶせで倒れているのを発見し119番通報したが、すでに死んでいた。警視庁N海岸署によると、遺体は死後3週間から1ヶ月が経過しており、損傷が激しいため歯の治療痕を照合したところ、捜索願の出ていた羽手菜しなもんさんと判明した。羽手菜さんは双子の妹と二人暮らしで、最近は創作活動のことで悩んでいた様子だったという。
妹の羽手菜ぴぐもんさんの談話:「今は何も考えられません。必ず帰ってきてくれると信じていたのですが・・・」
なぜ、私がそんなに驚いたのか。なぜなら、私は昨日14日に羽手菜しなもんさんに会っていたのだ!
キッキー、ドン。信号待ちをしていた私の車が、前後に衝撃を受けた。どうやら、後続車に追突されたらしい。車を降りると、後続車からも若い女性が降りてきた。「申し訳ありません!お怪我はありませんか?」衝撃も大したことはなかったし、体を動かしてみても不調は感じられないので、特に問題はないことを伝える。「よかった・・・」ほっとする女の子を見ると、どこかで見た顔だ。「あの、非常に申し訳ないお願いなんですが・・・」女の子が上目がちにこちらを窺う。「私いま、非常に急いでおりまして、この事故の処理は明日にさせていただけないでしょうか?あ、これ私の名刺です」渡された名刺には、『歌人 羽手菜しなもん』との記載が。見覚えがあったことに納得しつつ、しかし事故の処理は迅速にすべきだと主張したのだが、彼女のすがりつくような哀願に、一筆書いてもらうことと免許証のコピーを取らせてもらうことを条件に、処理の後回しをOKしてしまったのだ。
そして今、私は免許証のコピーと一筆を前に頭を抱えている。焦った私は何を考えたのか、このあいだ親友が「信じられないほど当たるから一度行ってみろ」と勧めてくれた霊媒師のもとを訪れてしまった。
「あなたが会ったのは羽手菜しなもんさんの浮遊霊になります。死者は現世への執念が強いと霊として他人の前に現れたり、さらに自分が死んだことを理解せずにこの世を彷徨ったりします。中には強い力を持ち、物質への介入を可能とする霊もいます。羽手菜さんの霊はまれにみるほど強い力を持っていたため、車の運転をも可能としたのでしょう。これらは全て私を守護するガチョピン神の託宣によるものですので、間違いはありません」
私は自室で途方に暮れている。何が真実なんだ?
車の修理代をもらうために、何をどうすればいいんだ・・・?